長く愛された喫茶店の跡で、新しい店が生まれる

生まれる前夜

長く愛された喫茶店の跡で、新しい店が生まれる
— 生まれる前夜 / 深草西浦町

京都・深草。
観光地のような華やかさはないけれど、日々の暮らしが流れている街があります。
その一角で、長く親しまれてきた店の跡に、今また新しい気配が生まれようとしています。

深草西浦町の街の風景

今回の建物があるのは、京都市伏見区深草西浦町四丁目。
目の前には公園があり、すぐ隣には住まいが接している、暮らしの気配が濃い場所です。

ここには、長く一軒の店がありました。
喫茶レストラン アイローロ
お父さんの代から続き、地域の人に親しまれてきた店だったそうです。

華やかな観光地ではなくても、街には街の記憶があります。
そして、その記憶を宿した建物が、次の使い方を探していました。

喫茶店だった頃、この店はとても賑わっていたといいます。

ただ、繁盛していた時期に客席を広げたことが、少しずつ店の流れを変えていった。
良かれと思って広げた席が、結果的には売上の低下にもつながっていったそうです。

長く続く店には、外からは見えない転換点があります。
それは一瞬で訪れるというより、少しずつ積み重なっていくものなのかもしれません。

この建物も、次の使い方を探していました。

改装前の建物には、長く使われてきた店の痕跡が残っていました。
その空気は、単なる空き店舗とは少し違って見えます。

深草西浦町の建物外観
深草西浦町で、長く親しまれてきた店の跡

息子さんも料理人だそうですが、この場所で店を続けるという選択はしませんでした。

最初は、自分でやることも考えたそうです。
けれど、悩んだ末に「貸す」という判断をされました。
その決断にも、この建物らしい時間の流れがありました。

PLACE
京都市伏見区深草西浦町4丁目50-2
FRONT
目の前に公園が広がる立地
PAST
長く親しまれた喫茶レストランの跡

この話が動いたタイミングも、印象的でした。
お父さんが亡くなって間もなく、相続後の出来事だったそうです。

そんな時期に、ここを借りたいという相手が現れた。
こちらから交渉を進める中で、ちょうどそういうタイミングだったと知りました。

偶然のようでもあり、何かが残されていたようでもある。
「父が、この話を届けてくれたのかなぁという思いがありました」
そんな言葉も、静かに心に残っています。

ここに入る店は、もう決まっています。

ただ、このシリーズではまだ言いません。

以前は飲食店として使われていた場所です。
けれど、次に入るのは、そうした流れをそのままなぞる業態ではありません。

その意外性もまた、この場所の新しい役割なのだと思います。

まだ工事の途中。
まだ看板も上がっていない。
だから今は、「生まれる前夜」です。

京都では、店はこうやって生まれます。

新しい建物に、新しい店がまっさらな状態で入る。
もちろん、そういう始まり方もあります。

でも実際には、長く続いた店の終わりの先に、次の店が生まれていくことが少なくありません。
そこには、数字や条件だけでは見えない背景があります。

家族の時間。迷い。判断。
そして、誰かが次を託す決断。
この建物もまた、そうやって次の役割へと受け継がれていきます。

UMARERU ZENYA

ここから、また一つ店が生まれます。

深草西浦町。
長く愛された喫茶店の跡で、また新しい店が始まろうとしています。
完成したら、またここで紹介します。
今はまだ、「生まれる前夜」